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【寄稿】「医学的適応のない卵子凍結支援事業」への違和感

SOSHIREN(’82優生保護法改悪阻止連絡会)のニュース403号(2024.6.15発行)に寄稿しました。事業の概要と漢人が第1回定例会に提出した文書質問への5/21の答弁も併せて掲載していただきました。
*SOSHIRENの了解を得て転載します。

PDF➡https://kandoakiko.com/wp/wp-content/uploads/2024/07/SOSHIREN403_8-11p.pdf


東京都の卵子凍結保存事業
「少子化対策」「女性の選択肢の拡大」ホンキですか?!

 がん患者や不妊症ではない、いわゆる”健康な女性“に対する「医学的適応のない卵子凍結保存」。今年4月から東京都は、この事業を本格的に開始しました。日本の人気タレントが自分の例をSNS等で発信し、都の説明会に9,600人超もの申し込みがあったことなどが背景にあるます。(2024.3.16本紙 No.401号で一部既報)
 今年度の予算額は5億5千万円超。巨額の予算に加え、リプロダクティブ・ヘルス・ライツの観点からも看過できません。3月26日に東京都へ文書質問を提出した漢人あきこ東京都議会議員に、この事業について執筆をお願いしました。質問と5月21日に出た都の回答も併せて掲載します。

 

「医学的適応のない卵子凍結支援事業」への違和感

漢人あきこ(都議会議員・グリーンな東京)

 東京都は今年度、少子化対策、女性の選択肢拡大をうたって、都独自の「医学的適応のない卵子凍結支援事業」の本格実施予算を組みました。
 都は、2年前の2022(令和4)年度に「卵子凍結の正しい知識の普及啓発」と「卵子凍結に関する助成対象検討」を始め、2023(令和5)年度には「本格的支援に向けた医療機関と連携した調査と調査協力者の卵子凍結費用助成」と「従業員の卵子凍結支援に取り組む会社への助成」を行いました。そして2024(令和6)年度には本格的実施として、卵子凍結の助成に係る費用4億4,000万円、企業への助成金1,600万円、卵子凍結に関する正しい知識の普及啓発等に係る経費及びその他事務費1億191万円を予算化しました。
 議会では、2022年秋から都民ファーストが会派として「海外では既に選択肢として普及している卵子凍結への支援創設」を求め、それに知事が応える形で進んできた印象でしたが、都はすでに前年から助成事業の検討を始めていました。
 とてもデリケートで議論の多い生殖医療への都の過度な関与への違和感や、事業目的やリスク把握などのへ疑問から、今回、文書質問を行いました。都議会での都の答弁は、意に沿わない質問に対しては禅問答のような婉曲答弁や実質答弁拒否が多々あり、文書質問でも同様ですが、そのような対応も含めて都の姿勢や事実が確認できます。
 何度も繰り返される答弁は「卵子凍結は、子供を産み育てたいと望んでいるものの、様々な事情により、すぐには難しい方にとって、将来の妊娠に備える選択肢の一つ」です。しかし、都は説明会で周知しているというデメリットのさまざまなリスクや、実際に凍結卵子が使用されるのは1割にも満たない現実に照らせば、奨励する選択肢としても、助成対象としてふさわしいものとは思えません。
 海外での普及についても、公的な助成が行われている例は把握しておらず、むしろ世界的に市場拡大している凍結卵子売買などの生殖医療ビジネスへの対応については、「本事業は、凍結卵子の売買、譲渡その他第三者への提供、海外への移送を行わないことを要件としている」と、これも繰り返されていますが、とても心もとない答弁です。
 東京都の「医学的適応のない卵子凍結支援事業」は、選択肢拡大どころか、女性の人生・ライフプランをミスリードし、生殖医療ビジネスに巻き込まれ、その市場拡大に寄与することにもなりかねないのではないかと、違和感はますます大きくなっています。

 

【事業の概要】
目 的:加齢等による妊娠機能の低下を懸念する場合に行う卵子凍結に係る費用の助成
対象者:東京都に住む18~39歳までの女性
助成額:卵子凍結の実施、上限20万円。保管料、1年毎2万円(5年間)。計30万円(最大)
要 件:
・卵子凍結の実施、保存は都の登録医療機関から選択すること
・凍結卵子は43歳未満で使用すること
・凍結卵子を用いて生殖補助を実施する場合は、必ず夫(事実婚含む)の精子を使用すること。その他
【予算額】
〇2024年度当初 5億5,791万円
(内訳:卵子凍結の助成に係る費用 4億4,000万円/企業への助成金 1,600万円/卵子凍結に関する正しい知識の普及啓発等に係る経費及びその他事務費 1億191万円)
〇2023年度当初 1億200万円
(内訳:卵子凍結の助成に係る費用 6,000万円/卵子凍結に関する正しい知識の普及啓発等に係る経費及びその他事務費 4,200万円)
【2023年度の説明会】開催回数104回、申込者9,675人、出席者7,586人
【助成金申請者】1,993人(年齢別内訳:20歳~24歳 4人、25歳~29歳 65人、30歳~34歳 624人、35歳~39歳1,300人)

 

【漢人都議の質問と東京都の回答】(抜粋・短縮/備考部分は漢人都議の質問等から)
Q:2023年度は予算枠を拡大し希望者全員を助成対象とした。限られた予算の中で希望者全員を助成対象としたのはなぜか?
A:卵子凍結は、子供を産み育てたいと望んでいるものの、様々な事情により、すぐには難しい方にとって、将来の妊娠に備える選択肢の一つ。都は、事業への参加を申し込んだ方全員の希望に応えた。
備考:助成金申請の65%が35歳~39歳。また、都は43歳未満までに使用することを求めている。39歳の場合、期限は4年間。相手男性がみつかるのか、妊娠するかどうかもわからない。「将来の妊娠に備える選択肢の一つ」と言えるのか疑問がある。

Q:卵子凍結保存を少子化対策と位置づける根拠は何か?
A:少子化の要因は複合的であり、都は、ニーズや課題に応じて様々な対策を講じている。卵子凍結は、子供を産み育てたいと望んでいるものの、様々な事情により、すぐには難しい方にとって、将来の妊娠に備える選択肢の一つ。
備考:少子化の原因の一つに妊娠・出産の高齢化がある。卵子凍結保存は、妊娠出産の先送りであり少子化対策とは言えず、逆に少子化を促進するという意見がある。

Q:企業への助成を行う事が女性の選択肢の拡大と言えるのか? 都が従業員の卵子凍結の支援に取り組む企業への助成を行う理由は何か?
A:働く女性が妊娠や出産等の時期を考える場合、卵子凍結を選択肢にできる職場環境をつくることは重要。都は、企業向けに、卵子凍結の正しい知識を提供するシンポジウムやセミナーを開催している。

Q:都に求められているのは、女性従業員が希望する時に妊娠・出産が実現できるよう、企業が職場環境や処遇改善に取り組むことへの支援ではないか?
A:都は、出産や育児のための職場環境整備として、休業や休暇を取得しやすい制度の充実などに取り組む中小企業等に対し、専門家派遣や奨励金の支給を行っている。

Q:卵子凍結のデメリットについてどう考えているのか?説明会ではデメリットについて充分に伝えているのか?
A:卵子凍結は、子供を産み育てたいと望んでいるものの、様々な事情により、すぐには難しい方にとって、将来の妊娠に備える選択肢の一つ。本事業は、卵子凍結に関する知識を正しく理解するための説明会への参加を助成要件としており、説明会では卵子凍結のメリットやデメリット、採卵から凍結までの医療行為の流れ等を説明している。
備考:採卵時のリスクや身体への侵襲性、凍結卵子を使う妊娠時のリスク、本人の期待と実際の妊娠率の差、高齢妊娠出産のリスク、医療機関の管理などデメリットは多岐にわたる。

Q:助成を受けた者が同意すれば、凍結卵子を提供することは可能か?
A:本事業は、凍結卵子の売買、譲渡その他第三者への提供、海外への移送を行わないことを要件としている。
備考:米国には使い切れない凍結卵子を他の女性に提供すると費用の援助が受けられるシェアリング・プログラムがある。卵子売買ができる国もある。

Q:本事業の助成期間5年後、あるいは5年に満たなくても助成を受けた者が凍結卵子を必要としなくなった場合、残された凍結保存卵子の扱いをどのように考えているか?
A: (前上と同じ)

Q:第三者に提供された場合、都が想定していない者が受益者となるが、公費助成事業のあり方としてあるのではないか?
A:(前々上と同じ)

Q:「医学的適応のない卵子凍結保存」に公費を使っている国はあるか?
A:加齢等による妊娠機能の低下を懸念する場合に行う卵子凍結に対して、海外における公費による助成の実施状況については把握していない。
備考:欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)加盟国の卵子凍結に対する姿勢の調査結果(2017年)によると加盟27国中、「医学的適応のない卵子凍結保存」について、推進は6カ国、慎重な態度は18カ国、禁止は3カ国。費用助成している国はゼロ/出典:『近未来の〈子づくり〉を考える-不妊治療のゆくえ』久具宏司著、春秋社刊
備考:2021年度から厚労省の「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」として、国自治体は「医学的適応のある精子・卵子凍結保存」についてのみ公的助成を行っている。

Q:「いつかは子どもを産みたい」という願望、いわば個人の将来の保険としての「医学的適応のない卵子凍結保存」に公費を使う理由は何か?
A:本事業は、子供を産み育てたいと望んでいるものの、様々な事情により、すぐには難しい方にとって、将来の妊娠に備える選択肢の一つとなるよう支援するもの。

Q:今後、5年間の経過を追い、その実績を記録し評価する仕組みはどのように作られているのか?
A:都は、事業の検証を行うため、卵子凍結を行った方に対して、令和10年度まで、凍結した卵子の使用状況等について調査を実施、事業の検証を行う。
(以上)


※桐山ひとみ議員(ミライ会議)も文書質問「卵子凍結について」を提出しています。
※文書質問とその回答は、5月29日に都議会図書館において紙ベースで公開されます。ホームページにアップされるのは2、3か月後です。
※東京都は、卵子凍結の手引「みんなで一緒に知りたい卵子凍結のこと」を作成しHPに掲載しています。
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/ranshitouketsu/tebiki.files/ranshi_tebiki.pdf

(まとめ・わ)

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『女(わたし)のからだから』No.403(2024年6月15日) 発行:SOSHIREN女(わたし)のからだから